あれは10年前

 皆さん、初めてのお給料は、何歳で貰いましたか?

 私が、お駄賃ではなくてお給料という形で金を手に入れた(表現がちょっとこわいが)のは、18歳の春でした。高校を卒業し大学へ入学する直前の春休み、生まれて初めて「アルバイト」をしました。地元のAという和菓子屋さんで、短期アルバイトの募集があったのです。今は怖いもの知らずの私ですが、当時は世間知らずもいいところってな感じの、初々しい18歳(自分で言うところが図々しいわね)、アルバイトを申し込む電話にも逡巡してました。うーん、可愛いところもあったなぁ、自分(だから、自分で言うなって)。しかも、高校が女子高で女子とばっかり遊んでいた私、一種の男性恐怖症になってました。うわー、信じられないわー、今では上司よりでけぇ態度なのにねぇ。でも本当に、男の人と目があっちゃうと、しかもそれが年齢の近い人だと、別に好き嫌いの感情に係わらず顔がトマトのように赤く染まるのであった。今ですと、妙齢の男性と目が合っても動じないどころか「何をガン飛ばしてるのじゃ。」とにらみ返したりする始末です。どこかで人生を間違えました。どーこーでーだーろー?ま、そんな私ですが、和菓子屋さんという場所は、苦手な殿方もワンサカとは居ないだろうし、やたらなお客も来ないだろう、という想像のもとに、アルバイトデビュー。一緒に雇われた19歳のお姉さんは売り子で、私は裏方・箱詰め係り。仕事の先輩は、パート勤務のMさんと、大・奥さん。なんで大がつくのかというと、もう一人若・奥さんがいるからです。呼び分けてたのですよ。この大・奥さんて人は、かーなーり、厳しい人でした。アルバイトの子が居着かないと評判だったのですよ、他のパートの売り子さんたちには。そこへ、ポヤーっとしてそうな私がやってきたので、泣かされなければいいけど、あの子、と心配されていたようです。
 しかし、ワタクシという人間は、打たれ強いところがありまして。それに、初めて労働をするという緊張感もあって、鬼コーチに鍛えられる部員(なんの部活だ)の如く、意外にも根性を見せたのであります。
 和菓子屋さんというのは、普段もそこそこ忙しいですが、春休み(桃の節句や入学や卒業)・夏休み(お盆)・冬休み(クリスマスやお正月)は、お土産とか贈答用の需要が高まり、忙しくなるので、A店ではその度に短期アルバイトを募集していたのでした。
 最初のアルバイトのとき、春休みは2ヶ月あり、私は遊んでいられる身分ではなかったので、母の心配をよそに2ヶ月みっちり働きました。週に1日休みがもらえるのですが、実にけなげなワタクシは、皆さんの予定を優先していただき、不規則な休日でもOK!働きまっせ、おりゃー!という勢いでした。それに、仕事がわかってくると楽しいってのがありますしね。どういう動線だと速く箱詰め出来るか?当時は袋詰も機械だけではなくて一部は手作業だったので、いかに速く包装するか。当時は今より景気がマシだったこともありまして、混雑する店は客が殺気立って待っています。売り子さんたちは客をビシバシとさばいていきますが、一人10個も菓子折りを買うと、ラッピングだけで時間を取られます。裏方は、次々売れていく菓子折りを詰めまくり、店に運びまくり・・・。仕事が良いとか悪いとかの感慨を持つ余裕もありませんでした。
 さて、春休みの終わりにお給料を貰って
「ありがとうございました。」
の挨拶が終わると、店長Kさんが
「ゴールデンウイークにもアルバイトに来ない?また募集すると思うから、電話をしてね。」
という、とっても嬉しいお言葉をくれました。よよよ(泣)。あれだけ厳しい大・奥さんが、たじんこならまた使っても良い、というお達しを出していたことと、経験者が来た方が、また新しく教えなくて済む、という理由からでした。ところがですねぇ、肝心のK店長、この約束をケロっと忘れてたんですよ。バカ正直に、GW前に電話をしたら
「え?たじんこさん?誰だっけ。」
みたいなことを言われました。よよよ、よよよよ(泣)。が、さすがに大。奥さんはちゃんと私を覚えていてくれて、
「たじんこさんの方が、新しい人より良いわよ。(教えなくて済むから)」
という援護射撃の元、たじんこは無事、和菓子店Aで働くことが出来たのでした。
 短期アルバイトに続けて同じ人間がくることって、珍しかったみたいです。だから店長も、本当に私がくると思っていなくて記憶の外に追いやってしまったようです。が、2回目も来た事で、やる気をアピールしたことが高く評価され(大げさ)、それ以降もずっとAでアルバイトをすることになりました。だから、アルバイトって、このAでしか働いたことが無いのです。
 普段、まじめに大学へ通っていると、通学に往復で2時間取られて、さらに1・2年のときは講義をたくさん取っておかねばならないので、あまりアルバイトをする余裕がなく、A店の短期アルバイトってのは、需要と供給が非常にうまくマッチしていたのであります。
 通常の店員さんとほぼ同じように働けるようになった頃、バイトにしては破格の時給(A店の規約以上の時給)をいただけるほどに出世したワタクシ。客商売ってのは向いてないと思っていましたが、でも頑張ったよ。そしてお世話になったですよ。おやつもいっぱい貰えたし。
 急になんでこんな長々と昔話してるかというと、単に、久しぶりにA店の相生店に立ち寄ってお餅を買ってきたから。そうなんです、A店はお餅も売ってるの。普段でも、お子様の成長を祝う背負い餅なるものや、紅白の餅なども注文受けてます(って、ここで私がCMしてどうする)。
 あんだけ世話になっておきながら、就職したらちっとも寄り付かない私。こういうのを恩知らずと言うのだろうか。