口の利き方

 親によく、
「お前は口の利き方がなってない。」
と怒られる。口調がきつくて乱暴なだけでなく、本気で人をムッとさせる言い方をしているのだそうだ。が、口が悪いということは、そんなお小言を大人しく聞いているだけで終わるわけがなく、口答えをする。子供のときは口答えをしたら、途端にピシャリと平手が飛んできた。うちの母親はそのくらい強かった。が、今はあちらは歳を取り、こちらの立場が強くなってきた。今まで溜まっていた不満をぶちまけるように口答えする。
 例えば、化粧品や書籍や毛糸ばかりを必要以上に買って、無駄遣いを窘められたときは、
「そういう自分はどうなの。食べもしないものを買って冷蔵庫を一杯にして、仕舞いには腐らせてるじゃないの!私が食い扶持って渡してるお金は、ドブに捨てられてるも同然だよ!」
 例えば今日は、街中を走っているバスを見て(一日に数本しか走っていない)、あれを利用できたら便利だけど、どういう巡回をしているか分からないしねぇ、という母に、
「毎週、あのバスを見るたびに同じことをグチグチ言うけどさ!毎週買出しには連れて来てるでしょ!頼まれた買い物だって会社の帰りにしてるじゃない。何の不満があるの!」
と怒鳴って、明らかに母がムッとして黙り込んだ…。
 また、うちの母は、私が軽自動車に乗っているとき、助手席に乗せると狭いだのシートが硬いだの、挙句には先日乗せてもらった誰々さんの車はとても広くて快適だっただの、一通りの愚痴を言った。そして、私が車を買い換えて普通車になった今でも、よその車ばかり褒める。
「あの車は軽自動車なの?へぇ、オシャレね。あ、あの車は大きいわねぇ。そういえば、前に誰々さんの車の乗せてもらったときには…。」
「そんなによそんちの車が良いなら、もう私の車には乗らなくて結構!私が頼んで乗ってもらってるわけじゃないっ。私の車は確かに高級車じゃないけど、そんなに劣ってる車だとも思ってない。そっちが大変だろうと思うから買出しに車出してるのに。」
と、私はブチ切れた。さすがにこれには一理あると思ったのか、最近は何も言わなくなった母である。
 問題は、私が非を認める前にキレルということだ。自分で分かっているけど、もう性格が捻じ曲がってるというか、そう簡単に直るものではない。しかし、身内には平気で毒を吐く私だが、よそでは気をつけている、つもりでいた。しかし、そうでもなかったようだ。
 今日は、恒例の買出しの後、一人で出かけた。主な目的は図書館へ本を返却して新しく借りることであった。が、ついでに、クリーニングの引き取りと、母に頼まれたお使い(ちょっといいお肉を買いに、行きつけの精肉店へ寄る)も済ませるためだ。図書館は専用の駐車場があるから良いとして、クリーニング店とお肉屋さんは図書館からは少し離れている。もちろん車で行けばすぐの距離だ。何の問題も無い。クリーニング屋さんは、専用の駐車場が無いのだが、道を挟んで反対側に某スーパーの駐車場がある。車の通りが少ない道なら、ほんのちょっとの時間だから路上駐車をしてしまえば良いのだが、生憎クリーニング店の前はかなり車の通りが激しい。そして、道幅は大して広くない。なので、私はいつもしているように、某店の駐車場に車を置いて、クリーニング店まで歩いた。タイミング悪く赤信号に引っかかり、待っていたら後ろから声をかけられた。
「あなた、そこに車を置きましたね?あれは、あなたの車でしょう。」
年配の男性だ。
「はい、そうですけど。」
「ここはね、公共の駐車場じゃないんですよ?」
あまり大きな声じゃなかったので、全部は聞き取れなかったが、明らかにルール違反の駐車をしている私を注意しようとしているらしい。その某店の人間なのかは不明。本来なら、
「ルール違反でした、ごめんなさい。」
と引き下がるのが筋なんだが、変なところで気が強い私は、ムっとしたついでに、
「でも、他の用事済ませた後に、某店で買い物するならいいんでしょうっ?」
と、かなり強い口調で言い返した。
「いや、後で、って言ってもね…。」
とモゴモゴ言うジイサマを尻目に、
「信号が変わったので失礼しますっ。」
とスタスタその場を後にした。クリーニング後の衣類を受け取り、戻ったら、とりあえずそのジイサマの姿は見えなかったので、さっさと駐車場を出た。もちろん、某店で買い物はしていない。
 某店は、店内の4階と屋上も駐車場だが、道を挟んで何箇所か駐車場がある。しかし、少なくともその離れた場所の1箇所は有料になった。その割りに、私が今日使った無料の駐車場は、いつもはかなり満杯なのに、今日はやけに空いているな…と思ったのだ。もしかして、あのジイサマがいちいち注意して回っているのか?某店の差し金か?