黒い影

「先生、どうなんでしょう。」
「うーん、ここにね、影が見えるんですよ・・・。」
「もしかして・・・癌?」
「まずは、もう少し詳しい検査をしてみましょう。大丈夫、癌でも初期だったら、治りますよ。」
でも、でももし、初期じゃなかったら?という言葉を、私は呑み込んだのだった。

 ・・・という話じゃなくてですね。今、机の上の蛍光灯のカサのところに、ゴン!っていうかなり手ごたえのありそうな音があったので、カナブンか何かが入ってきて明かりに寄ってきたんだな、そんでぶつかったんだなコンニャローと見たら、黒いGでした。
 今年の夏も黒とか茶のGたちと闘いを繰り広げていましてね、ええ。でも、それは台所での闘い。殺虫剤とハエたたきで、手馴れたもんですよ、私も。お掃除もしてますけど、何せ古い家だし、どこにどうスキマがあってホコリがあって、奴らの巣がどこにあるんだかは不明。
 だけど、何も私の部屋まで来ることはないだろ。しかも、隣の部屋で母親が寝ていたと思ったら飛び起きて、
「ギャッ!」
って騒いでいたので何かと思ったら、こちらも黒いGで、ゴルゴ13ばりの手並みで始末したばかりなのに。たぶん、外から窓の隙間をくぐって入り込んだと思われますが、Gはせいぜい台所だけにして欲しい。しかも、何を考えて電灯のカサに飛びついてんだか。
 別に、おやつを大量に持ち込んで食べこぼしだらけ、というわけじゃありません。でも、Gの奴らは、どんな状況でも何でもエサにして生きていけるらしいのでね。
 花梨のノミの問題もあって、家中バルサン焚きたいんですけどね、バルサン焚いてる間は、家にいられないじゃないですか。母ちゃんと花梨を同時に連れて行ける場所ってどこだ。