近所の目

 犬の散歩をしていると、後から思いもかけない人に見られている場合があります。別に目撃されて困るようなことはしてませんので構いませんが。マジメに犬に話しかけているところは、ちょっとかっこ悪いか・・・。
「もー、お前は何でイチイチよその犬のシッコの匂いばっかり嗅ぐのさー。」
とか。
「おお、今日のンコは大変にいい出来。」
とかとか。
 すれ違う近所の人とはもちろん朝の挨拶をしています。寝起きで寝ぼけ眼ではありますが、それでも挨拶は。が、そういうすれ違うのではなくて、相手は家の中とか庭にいて、私とは離れているという場合もありますです。
 で、母があとからその人と行きあうと
「お宅のお嬢さん?最近、犬を散歩させているのは・・・。大きくなったわね。」
文字通り大きくなりました。特に横幅がな。そんで、大きくなりすぎて、三十路超えましたぜ。
 それはともかく、何故分かるのかな?と思ったら、他でもない花梨が身分証明になっているのであります。あの犬はたしか、たじんこさんちの犬。ということは、連れているあの人は怪しい人ではなくて娘さんか。と、いう風に、ばれるらしい。悪いことは出来ない。いや、しませんけど。しませんったら。悪いことって何?たじんこ、よくワカラナイ。
 ただ私には悪い癖があって、散歩しながらキョロキョロしてしまうんですよ。新しいアパートが完成してると、しみじみ眺めて
「ここ、家賃いくらかなー。自分が住むとしたら、どの部屋がいいかなー。」
なんて考えてみたり。またはキレイな花がたくさん咲いている庭のある家をつい塀越しに眺めて
「手入れが大変だろうに、マメだなー。」
と口を半開きのままポケーっとしてみたり。あるいは、いつも吠える犬が見当たらないので、門の内側をじーっと見つめて
「あいつ、どこに隠れおった。」
と探してみたり。挙動不審なことこの上ないです。分かってるなら、やめればいいのに。
 それにしても、あまりに思いがけない人に見られていることが判明して、これからは少しは賢げな表情を浮かべて歩き回らねば、と決意しました。遅いような気もするが。