お抱え運転手、登場

 会社に電話がかかってきまして、ナンバーディスプレイなもんで、自宅からだわーと気づきました。
 自宅からの電話、大抵はたいした用事じゃないんだけど、花梨の緊急事態かも、と反射的に思ってしまいます。母親の緊急事態のときは、自宅から電話じゃないと思うので。シチュエーションにも拠ると思いますが。
「もしもし、バカ娘おりますか。」
って電話で言うのは止めなさい。一応、私が出たことを確認した上で言ってるけど、もし私じゃなかったらどうするの。
「ねぇ、今日、早く帰ってこられるの。」
「帰れるけど、何でさ。」
「Tさんちのおばあちゃんが亡くなったんですって。あたし、2日に会ったばかりなのに。車椅子に乗せてもらって、散歩しててさー。犬のナナ(ちなみにビーグルでメス)もいてさー。」
「いや、ナナのことは置いといて。亡くなったって、いつの話よ。」
「今朝みたいよ。O医院に行ったらさ、喪服着た人とすれ違うんで、知り合いに聞いたら、Tさんちのおばあちゃんが亡くなったっていうんで、あわててお宅へ行ってみたら、今日がお通夜なんだってー。」
「あー、はいはい。」
隣組だったら、誰かが乗せてくれるんだけどー。」
「あー、はいはい。」
「うちは隣組ではないから。」
「あー、はいはい。場所はどこよ、時間は何時なのよ。」
「場所はIさんで、6時からだってー。」
「あー、はいはい。じゃあ、早く帰るよ。」
母ちゃんの話はすぐに脱線するからなぁ。今回は私はお参りしなくても良いと判断。最近は、自宅でお通夜とか告別式をしなくて済むから、ラクチンね。Iさんちは、駐車場もそこそこ広いから助かりますわ。
 ちょっと早めについたので、母ちゃんを待つ間、『塩狩峠』を読んで待ってました。
 それにしても、だ。あわてていたのか、母ちゃんは玄関のところにおいておけばよいのに、お清めの塩を持ったまま車に乗り込み、車のなかでこぼしてくれました。こ、こないだガソリンスタンドでお掃除してもらったばっかりなのにっ。なぜか母は、掃除したての車内で、お茶をピューっとこぼしてみたり、パンを食べてクズをボロボロこぼしたりするクセがあります。狙ってるのだろうか。
「ちょっとぉ、塩は玄関の外に置いとけばいいでしょ。どうして車の中に持ち込んで、しかも撒いてるのよぉ。土俵入り?」
「おほほほほ、お参りする前にお清めよー。」
 その母は、お悔やみを喪主に伝えるときにも、
「ナナはどうしてるの、ナナは。」
って犬のことを気にしていたそうです。他に言うこと無いのか。