花梨の散歩

 犬を連れて散歩していると、通りすがりに話しかけられることが割りとあるのです。大抵は、
「可愛い犬ですね。子犬ですか?」
なんて言われる。大型犬に慣れている人だと、花梨のサイズはまだ子犬に見えるのかもしれません。
「いえ、この子は13歳ですよ。人間で言ったら、おばーちゃんです。」
と答えつつも、年齢のことより『可愛い犬』ってところに反応してニヤニヤしています。もっと言って!うちの花梨はチョー可愛いって、もっと言って良いんですよ!
 あ、いけない、鼻息が荒くなってしまいました、ええと、それで花梨の散歩中のことですね。昨日のことなんですけど。いつもより少し遅めの時間に、のんびり歩いていたら、花梨がウン○をしたのです。で、その始末をしていたら、いつの間にか背後に人が。初めて会うおばちゃんでした。
「大人しい犬ですね。」
「そうですね、あまり人に対して吠えたりしませんね、この子。」
「うちにも犬が居たんですよ。あの、マルチーズっていうのと、ミックスで柴犬くらいの大きさのが。」
「はあ。」
「でもほら、私、犬が好きじゃないでしょ。」
「はあ。(そんな言い方されても、初対面なのに知らんがな。)」
「まぁハッキリ言うと、犬が嫌いなのね。」
「ははあ。(言い方変えただけやんけ。っていうか、犬が嫌いなのに、なぜ犬を飼う?)」
「でも、うちの人が好きでしょ。だから、飼ってるの。」
「ほほう。(でしょ、って言い方されても、だから知らんがなっちゅーの。それは一般常識なのか?)」
そんな調子で、なぜかずっとそのおばちゃんの飼い犬情報から、そのおばちゃんの家の近所に飼われている犬の情報まで、ツラツラと話したおすのです。もー、いいから、私に散歩の続きをさせてください。
 話の継ぎ目を待って、
「それでは、ワタクシは散歩の続きを。」
と切り上げました。
 昔だったら、花梨が若かったときは、花梨が散歩の続きを促してピーピー鳴いたり、ぐいぐい引っ張ったりしたものなんですが、最近の花梨は妙に聞き分けが良くなってしまって、大人しく待っているのです。で、私が歩き出したら、
『あ、話終わったの?良かった、じゃあアッチに行きたいな。』
なんて顔で人のこと見上げてる。いつの間に、そんな可愛い奴になってしまったんだ、花梨。でも、ああいうときは、遠慮なくグイグイ引っ張ったり騒いだりして戴きたい。話が切り上げやすくなるので。